「特定技能で外国人さんを入れたけど、支援機関に丸投げで、正直よう分からんのよ」。介護施設の経営者と話すと、ほんとよく出る言葉です。人が来ない、辞める、また足りない。その繰り返しの中で、特定技能に手を伸ばした。でも、任せきりのまま3年。この記事は、そんな施設長さんに向けて書きました。丸投げが、じつは法律のリスクと5年後の崖を抱え込むこと。そして「自社支援化」という、もう一つの道を、順にいきます。
01まず、受け入れの今を数字で見る
先に、数字を少しだけ。介護業界の有効求人倍率は、約3.95倍(2024年)。日本人の応募は、ほぼ来ません。特定技能で来日した外国人の介護人材は、累計4万人を超えました(出入国在留管理庁・2024年)。受け入れ自体は、もう当たり前になりつつあります。
気になる調査もあります。特定技能の受け入れ側でありながら、支援の中身を自分では説明できない経営者が、約67%(介護労働安定センター・2024年調査)。任せているつもりが、任せきりになっている。ここに、落とし穴があります。
02落とし穴①「登録支援機関に任せとけば、大丈夫」
山口の介護施設A社。特定技能スタッフ3人を受け入れて、施設長は「登録支援機関に月5万円で任せている」と安心していました。ところが、ある日、入管の調査が入ります。
- 支援記録の控えを、施設側で保管していなかった(法律上、施設にも保管義務がある)
- 頼んでいた登録支援機関に、廃業の予兆。引き継ぎの準備はゼロ
- 外国人スタッフが「生活で困っても、相談できる窓口がない」と訴えていた
- 届け出ていた住居の情報と、実際の暮らしがズレていた
指導と是正命令が出て、追加対応に約200万円。スタッフ1人は、辞めていきました。施設長のことばが、胸に残ります。「任せていると思っていたのに、任せきりにしていたんです」。
ここが、いちばん大事なところです。登録支援機関に委託するのは、法律上OKです。ただ、支援の義務を負う主体は、受け入れ機関である施設のまま。委託しても、責任は消えません。どこまでが施設の責任か、表で見てください。
| 役割 | 施設(受け入れ機関) | 登録支援機関 |
|---|---|---|
| 支援義務の主体 | 負う(委託しても動かない) | 実務を代行するだけ |
| 在留資格の更新管理 | 施設の責任 | 手続きの補助まで |
| 入管への届け出 | 施設の責任(住居変更など) | 作成の支援まで |
| 支援記録の保管 | 施設にも保管義務あり | 控えの提供 |
登録支援機関が廃業したり、担当者次第で支援の質がばらついたりすると、そのしわ寄せは施設に来ます。入管に説明するのも、施設です。
▷ 注意:「委託しているから、うちは関係ない」は通用しません。まず、支援記録の控えが施設に残っているか。今日、確認してみてください。ここが空っぽだと、調査で一番先に指摘されます。
03支援義務は10項目(採用は入り口)
山口の介護施設B社。特定技能のスタッフを採用して、施設長は「あとは現場で頑張ってもらう」と思っていました。3ヶ月後、こんな相談が出てきます。銀行口座を作れない、住居の更新でトラブル、健康保険や年金が本人任せ。ストレスで仕事に集中できず、6ヶ月で離職。施設長のことば。「採用がゴールだと思っていたら、本当のスタートだったんです」。
特定技能の外国人を受け入れる施設には、法令で10項目の支援義務があります(出入国管理及び難民認定法)。採用は、その入り口にすぎません。
- 事前ガイダンス/入国前に、制度・職場・生活の説明
- 出入国時の送迎/来日時・帰国時の空港送迎
- 住居の確保/家賃の保証人も含めたサポート
- 生活オリエンテーション/公共サービス・行政手続きの案内
- 公的手続きの同行/住民登録・年金・健康保険など
- 日本語学習の機会/教材や教室の紹介
- 相談・苦情への対応/母国語で対応できる窓口
- 日本人との交流促進/地域行事への参加支援
- 転職の支援/受け入れが終わるときの転職活動サポート
- 定期面談/3ヶ月に1回の面談と、記録の保存
この10項目、すべて施設の責任で実施します。登録支援機関に委託しても、義務の主体は施設のまま。ここは、外せない前提です。
▷ ここがコツ:「採用に力を入れて、支援は現場任せ」だと、必ず辞められます。意識を、採用3・支援7に。入った後のほうが、はるかに大事です。
04受け入れから支援までの流れ(図解)
10項目は、バラバラにあるわけではありません。受け入れの時間の流れに沿って、こう並びます。全体を先に見ておくと、抜けに気づけます。
▷ 注意:STEP5・6は、あとで調査に響く部分です。面談記録の控えと、各スタッフの在留期限。この2つは、施設の手元で必ず管理してください。
05落とし穴②「5年後のことは、そのとき考える」
山口の介護施設C社。特定技能1号のスタッフ3人を採用して、4年半。施設長が「もうすぐ5年やな、どうしよう」と気づいたとき、崖はすぐそこでした。
- 特定技能1号は、在留できる期間が最長5年
- 5年を過ぎると、帰国するか、別の在留資格に移るかが必要
- 3人同時に期限が来る。一気に3人分の戦力が抜ける
- 帰国するスタッフへの引き継ぎ準備も、できていない
施設長のことば。「あと半年で3人が一斉にいなくなる。今から採用しても、間に合わん」。
介護分野には、制度上の特殊な事情があります。介護は、特定技能2号の対象外とされてきました(建設・造船などが2号の対象)。長く働いてもらうには、別の道が要ります。介護福祉士の資格を取って、在留資格「介護」に移るのが、その代表的なルートです。ここは制度が動きやすい部分なので、必ず最新の情報で確認してください。
5年の期限が来たとき、進む道は分かれます。図で見てください。
希望する
(後任の採用を早めに)
ほしい
在留資格「介護」へ
対象外
できない前提で動く
▷ 注意:在留資格の要件や移行の条件は、制度改正で変わります。どの道を選ぶかは、必ず入管や専門家に最新情報を当てながら決めてください。
崖を避けるための考え方は、3つです。
- 採用時期を分散する/同期入社をやめて、1年ずらして採る
- 帰国時期に備える/各スタッフの帰国半年前から、後任の採用を始める
- 長期の在留を早めに検討/介護福祉士の資格取得支援などを、早めに動かす
▷ 注意:在留期間や資格の要件は、年度や制度改正でごろっと変わります。5年後の計画は、必ず入管や専門家に最新情報を当てながら立ててください。「そのとき考える」が、いちばん危ない。
任せきり、は別物。
いざというとき、全部が施設に返ってくる。
06自社支援化という道(12ヶ月)
3つの落とし穴を見れば分かる通り、特定技能の活用は「受け入れた後の運用」が9割です。そこで提案したいのが、「自社支援化」という道。登録支援機関に丸投げする状態から、少しずつ、自分の施設で支援を回せるようにしていく考え方です。
委託を続ける場合と、自社支援化した場合。何が違うのかを、表で見てください。
| くらべる | 登録支援機関に委託 | 自社支援化 |
|---|---|---|
| 月のコスト | 5万円/人 | 0円/人 |
| はじめの手間 | 少ない(丸投げできる) | 多い(体制づくりが要る) |
| 支援のノウハウ | 施設に残らない | 施設に残る |
| いざという時 | 廃業・質のばらつきに左右される | 自分の施設で回せる |
12ヶ月後には、月5万円/人の委託費が要らなくなります。年間で見れば、複数人分のコスト削減。そのうえ、支援のノウハウが施設の中に残ります。人任せだった部分が、自社の力に変わっていく。ここが、いちばんの狙いです。
▷ ここがコツ:いきなり全部を自社で、は無理があります。まず10項目のうち「自分で説明できる項目」を1つずつ増やす。説明できる数が、そのまま自社支援化の進み具合です。
07もう一歩くわしく:用語・つまずき・ケース
用語を、かみ砕く
| 用語 | この記事での意味 |
|---|---|
| 登録支援機関 | 特定技能の支援を外注する先。委託しても、支援義務の主体は受け入れ機関(施設)のまま |
| 支援義務10項目 | 事前ガイダンスから3か月ごとの定期面談まで。法令で決まっている |
| 支援記録の控え | 施設側にも保管義務がある。支援機関任せにしない |
| 5年の崖 | 特定技能1号の在留は最長5年。同時に採ると同時に抜ける |
よくあるつまずきと、直し方
| つまずき | 直し方 |
|---|---|
| 委託したから責任がなくなると思う | 主体は施設。入管に説明するのは施設 |
| 支援記録を施設に残していない | 控えの保管義務は施設に。テンプレートを整える |
| 在留期限を書き出していない | 各スタッフの期限をカレンダーに。崖は書き出した瞬間に見える |
| 「5年後はそのとき考える」 | 3人同時に採れば3人同時に抜ける。採用時期をずらす |
ケースで見る(仮の例)
山口県内の介護施設(仮の例)。特定技能4名を受け入れ、支援は登録支援機関に委託。ある日、支援機関から「事業を縮小する」と連絡。引き継ぎの準備はゼロ。支援記録の控えも施設にはなかった。
やったのは自社支援化の前倒し。1か月で10項目と法令を理解し、2か月目に担当を決めて記録のテンプレートを整え、3か月目から並行運用。半年で自社だけで回せるようになった。
同時に、在留期限を全員ぶんカレンダーに書き出した。4名のうち3名が同じ年に期限を迎えることが分かり、次の採用時期をずらした。見えていなかった崖が、書き出した瞬間に見えた。
- 委託しても主体は施設。記録の控えは施設に
- 在留期限をカレンダーに。崖を見える化
- 自社支援化は12か月で。並行運用から
08よくある質問
09最後に:制度は変わる、必ず一次情報で
今日、確認できることを3つだけ。支援記録の控えが施設に残っているか。10項目のうち自社で説明できるのは何個か。各スタッフの在留期限を、カレンダーに書き出したか。5年の崖は、書き出した瞬間に見えてきます。
▷ 必ず確認を:特定技能の要件・在留期間・支援義務・対象分野は、制度改正でたびたび変わります。この記事の内容は執筆時点の整理です。実際に動く前に、入管(出入国在留管理庁)や入管業務の専門家で、必ず最新の情報を確認してください。
外国人スタッフが安心して働けて、長く定着する施設になる。それは地域に、介護という仕事の受け皿が残ることでもあります。人手不足の山口で、施設が踏ん張れること。それ自体が、地域の若い人にとっての選択肢になります。